「・・・私は三越でこさえた白い麻のフロックコートを着ましたが、これは勿論、私の好みで作法ではありません。けれども元来きものというものは、東洋風に寒さをしのぐという考も勿論ですが、一方また、カーライルの云う通り、装飾が第一なので結局その人にあった相当のもをきちんとつけているのが一等ですから、私は一向何とも思いませんでした。実際きものは自分のためでなく他人の為なのです。自分には自分の着ているものが全体見えはしませんから他の人がそれを見て、さっぱりした気持ちがすればいいのであります。」

ビジテリアン大祭 宮沢賢治
新編 銀河鉄道の夜 新潮文庫